国連人種差別撤廃委員会は日本に「カウンター勢力の妨害をするな」と勧告したのか?

  このホームページは私jajioがヘイトスピーチの法規制に反対する立場で作成したものです。ヘイトスピーチの法規制について反対論を述べて読者を納得させるには、

国内外の関連情報を上手にまとめて説明するべきなのでしょうが、私にはそのような技量はないので、たった1点についてだけ論じたいと思います。それが上記の論点なのです。

 2014年8月29日に国連人種差別撤廃委員会から出された日本への勧告素案について、有田芳生参議院議員と前田朗東京造形大学教授がネットテレビで解説しているのを

キャプチャしたのが上の画像です。左側の写真のモニタの画像がアップになったときの1画面を右側に示しました。動画で発言内容までご紹介したいところなのですが、ファイル

容量の問題があり、画像の下のボタンで放送開始から20分時点前後の音声を再生できるようにしました。(実際の動画はこちら⇒https://www.youtube.com/watch?v=a0jZIN7lMFs )

 

 さて、右上のモニタ画面を提示しながら有田・前田両氏が説明した言葉を以下に書き起こします。

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有田氏「・・ここんとこの、差別的ヘイトスピーチの監視及び撲滅の方策が抗議の意思の表明権を取り上げる口実となってはならないと、

         ここもひとつ大事なポイントだと思いますけどね」

前田氏「わかりにくいですけど、抗議の意思となってます、要するにカウンター勢力の妨害をするなという意味です」

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 わかりにくいというよりは、さっぱりわからない、というのが私の最初の感想でした。しかし、そう思わない人もいるでしょうから、理由を説明します。そのためには勧告の問題

部分文章を提示しなければなりません。実は画像右側の文章は勧告素案中の、問題となる第11節の一部を日本語訳したもの((a)から始まる箇条書きの部分は翻訳後に誰かが

要約したものであり、この訳は【差別反対東京アクション】のサイトに載っているものですが、抗議の意思の表明「権」の部分*1と「リマインドする」という部分が納得いかないので、

人種差別撤廃NGOネットワークによる訳を(せっかくなのでその前の部分も含めて)紹介します。

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人種差別撤廃委員会よりの日本への勧告第11節の人権撤廃NGOネットワークによる訳

11.委員会は、締約国における、外国人やマイノリ ティ、とりわけコリアンに対する人種主義的デモや

集会を組織する右翼運動もしくは右翼集団による切迫した暴力への煽動を含むヘイト・スピーチ

のまん延の報告について懸念を表明する。委員会はまた、公人や政治家によるヘイト・スピーチや憎

悪の煽動となる発言の報告を懸念する。委員会はさらに、集会の場やインターネットを含むメディア

におけるヘイト・スピーチの広がりと人種主義的暴力や憎悪の煽動に懸念を表明する。また、委員会

は、そのような行為が締約国によって必ずしも適切に捜査や起訴されていないことを懸念する。(第4条)

人種主義的ヘイト・スピーチとの闘いに関する一般的勧告352013 年)を思い起こし、委員会は人

種主義的スピーチを監視し闘うための措置が抗議の表明を抑制する口実として使われてはならない

ことを想起する。しかしながら、委員会は締約国に、人種主義的ヘイト・スピーチおよびヘイト・クライム

からの防御の必要のある被害をうけやすい立場にある集団の権利を守ることの重要性を思い

起こすよう促す。したがって、委員会は、以下の適切な措置を取るよう勧告する: ⇒以下、右上画像の(a)から始まる箇条書き部分は省略

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 さて、ここから、上掲の人権撤廃NGOネットワークによる訳を基本に、有田氏らの解説が文脈的に間違っていることを私なりに解説します。

 もし、有田氏の示した「差別的ヘイトスピーチの監視及び撲滅の方策が抗議の意思の表明権を取り上げる口実となってはならない」に相当する部分、即ち、

  引用中に太字で示した「人種主義的ヘイト・スピーチとの闘いに関する一般的勧告352013 年)を思い起こし、委員会は人種主義的スピーチを監視し闘う

 ための措置が抗議の表明を抑制する口実として使われてはならないことを想起する。」の部分が前田氏の云うように要するに「カウンター勢力の妨害をするな」

 という意味だと仮定してみましょう。 

 すると、その論旨は、ヘイトスピーチ規正法を制定していない日本にもヘイトスピーチの「被害をうけやすい立場にある集団(カウンター勢力が守ろうとしている集団)

 を守る必要があるということが前提にあるはずなのですから、その前提の部分が、前じゃなくて後ろに「しかしながら・・被害をうけやすい立場にある集団の権利を守る

 ことの重要性を思い起こすよう促す。」とあるのは順序が逆ですし、「しかしながら」ではつながりません。

 次に、直前の文章との関連で言うと、そこではヘイトスピーチの蔓延に関する危惧を述べる中に「抗議」という言葉が入っておらず、問題の部分に「抗議」がいきなり出てくるので、

一見、この「抗議」はヘイトスピーチに対する抗議っぽく見えなくもありません。しかし、参照するように書かれた一般勧告35の該当部分をみると、誰による抗議であるか(カウンター

勢力による抗議であるかどうかなど)は限定しておりません。

↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓一般勧告35の第20節(人種差別撤廃委員会一般的勧告35翻訳委員会による翻訳)↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓

20. 委員会は、表現の自由に対する広範または曖昧な制限が、本条約によって保護される集団に不利益をもたらすよう使われてきたことに懸念を表する。

締約国は、この勧告に述べられたように本条約の基準に沿って、十分な正確性をもってスピーチの制限を規定すべきである。

委員会は、人種主義的スピーチをモニターし、それと闘う措置が、不公正に対する抗議や社会の不満や反対の表現を抑圧する口実のために使われては

ならないことを強調する。

http://www.hurights.or.jp/archives/opinion/

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 又、「抗議」と訳された英語のprotestは、間違ったものに対する正当な抗議であるか、単なるわがままないちゃもんのような抗議であるかを問わず使われている言葉のようです。

例えばWikipediaHate Speechのページを見ても、日本で安倍総理らがKoreansなど外国人に対するヘイトスピーチの高まりに懸念を表明している旨を記したあと、

「しかし、これまでprotestersに対してどんな法的措置も提案するには至らなかった(私の訳)」と書いてあります。このprotesters(抗議する人々)は明らかにヘイトスピーチをする側の

人達をさしています*2 http://en.wikipedia.org/wiki/Hate_speech ,*3

それと同じ様に考えれば、日本への勧告で日本のヘイトスピーチのまん延を懸念する文章のあとに「人種主義的スピーチを監視し闘うための措置が抗議(protest)の表明を抑制

する口実として使われてはならない」とあれば、そのprotestは主として人種主義的スピーチを行う人達によるprotestだと考えても何の不自然もない。というか、そっちのほうが

(protestと言い換え可能な事象について述べたあとに出てきたprotestという語を、いかなるprotestなのかの説明もないのにカウンター側の抗議のことであると考えるよりは)

むしろ自然でしょう。また、その方があとの文章とのつながりも自然です。

 人種に関連するスピーチ(例えば、アメリカ軍に対して「アメリカ軍は出て行け」と言ったりとか)をしただけでヘイトスピーチだとして規制するのはサヨクに対する言論弾圧の口実と

しての悪用であって、そんなことをしてはいけない、と述べたあとで、しかしながら、「ヤンキー ゴーホーム」のような憎悪をあおるようなヘイトスピーチの「被害を受けやすい立場

にある集団(在日米軍や家族)」を守ることの重要性を思い起こすよう促し、然るに、(a)(b)・・のことをするように勧告しているわけで、綺麗に意味が通るのです。

 以上から、文脈的な考察より、有田・前田両氏の「わかりにくいですけど、抗議の意思となってます、要するにカウンター勢力の妨害をするなという意味です」という解釈は間違って

いると私は考えました。

つまり、国連人種差別撤廃委員会は日本に「カウンター勢力の妨害をするな」と勧告していない

と私は考えます。(以上)

 

*1:有田氏らが解説で抗議の意思の表明「権」という言葉を使っていることについては、「権利に相当する英単語は原文には無いのになぜ『表明権』なんて単語が出てきたん

だろう」と最初は不思議に思い、理由がさっぱりわからかったのですが、ひょっとすると、”ここでの「抗議」が意味するのは正当な「権利」として行えるものであって、人種に関連

する不満の表明のスピーチなどは含まれない”かのように見せるための印象操作ではなかろうかと今では疑っております。だってそうやって「抗議の意思の表明権を取り上げる

口実となってはならない」という文章にしちゃうと、人権委員会の勧告の第11節が、いかにも「カウンター勢力の妨害をするな」っぽく見えますので、そうなると、ジュネーブまで

いって人種差別撤廃委員会に在特会その他のデモの動画を持っていって見せた自分たちの業績ってことになりますからね。

 また、前田氏はのりこえねっとの共同代表であって、のりこえねっとと差別反対東京アクションは多くの活動を協力して行っていて、かなり密接な関係があるようなのですが、

差別反対東京アクションによる翻訳に前田氏が関与しているのかどうかについては、今回調べた範囲ではわかりませんでした。

 尚、日本への勧告の原文は

http://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section1/2014/09/01/Concluding%20Observation%20%28Advance%20unedited%20Version%29.pdf

 

*2:差別反対東京アクションのサイトにこのwikiページの翻訳が掲載されています。http://ta4ad.net/wp/?page_id=415  原文とここの訳文を下に引用併記します。

・In 2013, following demonstrations, parades, and comments posted on the Internet threatening violence against foreign residents

of Japan, especially Koreans, there are concerns that hate speech is a growing problem in Japan. Prime Minister Shinzo Abe

and Justice Minister Sadakazu Tanigaki have expressed concerns about the raise in hate speech, saying that it "goes completely

against the nation's dignity", but so far have stopped short of proposing any legal action against protesters.

・2013年、在日外国人、特に韓国・朝鮮人に対するデモや行進が行われたり、彼らに対する暴力行為を示唆する脅しのコメントがインターネットに投稿されたり

した結果、ヘイトスピーチは、日本で深刻化している問題として懸念されている。安倍晋三首相と谷垣禎一法務大臣は、ヘイトスピーチの高まりについて、

「品格ある国家に真っ向から反する」として懸念を表明した。しかし、これまでのところ、ヘイトスピーチをした者に対する法的措置を提案するには至っていない。

*3:それ以外にも、日本でのKoreansに対するデモをHate speechとして例示し、あとでsuch protestsと言い換えている例(THE DIPLOMATというサイトの記事)

 http://thediplomat.com/2014/09/new-anti-hate-speech-laws-could-be-double-edged-sword/ や、Hate rallies(集会)が広まったという文章に続けてその例示をしたあと、It found that March had

the most instances of protests with 35.と書いてあったり、また、そのあとにIn June, police made a number of arrests after a clash between protesters and those opposed to

such behavior.と書いてあって、hate speechする側はprotestersで、カウンター側はthose opposed to such behaviorという表現となっている例(朝日新聞の英文記事) http://ajw.asahi.com/article/behind_news/social_affairs/AJ201311070011 

などもあります。hate と speech とprotestでググると他にも見つかりますので疑わしいと思ったら試してみてください。

追記:私がこのホームページを作ったのは、「仁道主義」さんというかたがこの問題についてまとめサイトを作っておられたのを見たのがきっかけです。

       なるべく正確な記述にして説得力を増してほしいと考えて協力すべく、細かなミスを指摘するような書き込みをしたのですが、書き込みにまったく

    反応していただけないので、仕方なく自分でHPを作ったという次第です。

     

    :差別反対東京アクションに人種差別撤廃委員会の日本への勧告の翻訳について問い合わせてみました。”一般的勧告352013

          「人種主義的ヘイトスピーチと闘う」に照らしても、委員会は人種差別的ヘイトスピーチの 監視及び撲滅の方策が抗議の意思の表明権利を取り上げる

          口実となってはならないと認識している。という翻訳について、jajioが「権利」という原文にない単語を使用していることを指摘して

    >その訳だと、その「抗議」は正当な「権利」に基づくものであって奪われてはならないものだ、という印象を読者に与えます。

      >そうなると、読者としては、そのような「抗議」なら、カウンターなど マイノリティー側を守る勢力による抗議であって、ヘイトスピーチやそれに類する発言をする者による

            >「抗議」のことではないだろうと考えてしまいかねません

    と書きましたところ、

     >> その訳だと、その「抗議」は正当な「権利」に基づくものであって奪われてはならない

    >> ものだ、という印象を読者に与えます。

     >これはその通りだと思います。レイシストであっても社会に対する不満に対する抗議の「権利」はあると思っています。ただしそれが、人種差別を扇動する、

      >いわゆるヘイトスピーチの形をとることは許されないと考えています。

     という返事をいただきました。このことから、ここでの「抗議」を翻訳者は(主として)レイシスト側の抗議と解釈していると、jajioは

        理解しました。

    :法務省人権擁護局が日本への勧告の仮訳を提示しています。jajioが問題としている11節の部分は”人種差別的ヘイトスピーチへの

          対処に関する一般的勧告35(2013年)を想起し,委員会は,人種差別的スピーチを監視し対処する措置は,抗議の表現を奪う口実として使われるべきでは

          ないことを想起する。”と訳しています。やはり,「権利」などという言葉は使っていませんね。

         :前田朗氏について、どのような人物か知りたい方はこちらをクリック。

       :有田芳生氏について、どのような人物か知りたい方はこちらをクリック。

        (外国のヘイトスピーチ規制状況について,それぞれ別ページにまとめましたスウェーデンフランス米国

    カナダオーストラリアオーストリアドイツ,イギリス,オランダスイス ,スペイン,韓国 ,ドバイ ,デンマーク ,ギリシャ,ベルギー ,

    ブラジル ,チリ ,クロアチア ,フィンランド ,アイスランド,インド,インドネシア,ヨルダン,ニュージーランド,ノルウェー,ハンガリー

        ポーランド,  セルビア,シンガポール,南アフリカ

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